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「大正×対称アリス HEADS & TAILS」の感想・レビュー

 

 

meka.hatenadiary.jp

 これのFDです。

 

 きみの愛しきほほえみは確かに
 愛の贈り物たるおとぎ話を勝ち得るはず

 そして過ぎ去りし「しあわせな夏の日々」と
 消え失せた夏の栄光のための
 そしてため息の影が物語を
 一貫して震えぬけようとも
 それが悲嘆の息もて我らの
 おとぎ話の喜びに触れることはない。

鏡の国のアリス Through the Looking Glass: And What Alice Found There
ルイス・キャロル
翻訳: 山形浩生

Through the Looking Glass: Japanese より引用。

 

ゲームデザイン的には、今回主人公はほとんど選択らしい選択をしない。これは、登場人物全員をハッピーエンドに到達させるための措置である。この種のゲームでは、主人公に選択された登場人物は幸福になる。言い換えれば、選択されなかったキャラクターは不幸になる――もしくは不幸を抱えたまま生きていくことになる。

ただひたすらに幸福のみを追い求めていくこのジャンルにおいては、本質的に不幸を孕むこのようなシステム的矛盾はあってはならないはずだ。

この矛盾を解消してやるためには、登場人物が幸福になる要因を、「行動」ではなく「存在」に求めるしかない。

主人公が存在しているだけで幸福だ――というのは、この種のゲームのそもそもの立脚点だったはずだ。

 

元長柾木論 ゲームにおける選択について(引用)

 
いままで乙女ゲーは結構な数をやってきたが、百合花はそのなかでも一番うつくしく、一番残酷なヒロイン(主人公)だと思った。
前者の引用は対アリFDのメモ、後者の引用は百合花への印象。


本作は「オオカミ編」「猟師編」「学園アリス編」「アフター編」で構築されている。
まず後半の「学園アリス編」「アフター編」。前者はなんでもありのパラレルコミカルだし、後者は本編後の攻略キャラたちとのイチャイチャだ。 このへんはボーナストラックで、FDらしいFD。 (でも「アフター編」の魔法使いは最後に読んだ方がいい。)


わたしの大好きなドラマ「リーガルハイ」のコミカドを彷彿させるアリスの毒舌おしゃべり野郎っぷりは健在で、今回も彼が口を開くたびにテキストボックスは文章がドーッと羅列される。アリスの「ギャー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」という叫び声は、松岡氏の高い演技力によって私に毎回驚きを与えた。 (余談だが松岡氏のファンは対アリを買って損は無いと思う。文字通り七色の声帯を楽しめるからだ。)

 

そして問題の「オオカミ編」「猟師編」。本編とFD、レコード盤のA面とB面の関係だと思ってくれていい。 ようするに本編の裏側だ。
対アリはおとぎ話をモチーフにしており、「こうしてお姫様と王子様は幸せに暮らしました」で終わる”王子様”に捧げる物語。 オオカミと猟師は王子ではない。物語の「サブキャラクター」、「ハッピーエンド=ヒロインと恋愛的に結ばれるエンディングが最初から存在していない」存在だ。

ようするにフツーの乙女ゲーFDのように「サブキャラクターを攻略できる」ワケじゃない。 というか、それ期待してたら「オオカミ編」でボッコボコにされる。

 

「オオカミ編」、読みましたか?私は読みました。早朝4時まで夢中で読んじゃったよ。ぶっちゃけ言うと「オオカミ編」は「最初からハッピーエンドが約束されていない物語」(ここでいうハッピーエンドの定義は上記参考。) だからすごーく残酷な物語だ。憎悪は無い、悪意は無い、敵意は無い。だからものすごく残酷。

本編でわかっていたことだがヒロイン百合花の残酷さがこれでもか!と出てくる。 対アリは、百合花がすべてを利用して王子様に捧げた物語だ。ゴージャスでドキドキ、ときには痛みや苦しみもあるが、最後にはハッピーエンドで終わる愛の物語。
しかし表があれば裏があるのが世の常、「愛の物語」も例外ではない。

 

つづきはネタバレ感想。

 

学園アリス編」「アフター編」

 前者はコミカルギャグですね。後者も甘々アフターかと思いきや、魔法使い編は本編の補足なので最後にしたほうがいい。シンデレラとおでかけしたり(乙女ゲーでヒロインが吐くと思わなかった)赤ずきん朝チュン(?)したり(乙女ゲーで淫乱あばずれクソビッチなんてワード見るとは思わなかった。)等。
本編で展開されていた男性側の問題点が、百合花とくっつくことで良い方向に向かってるとわかったのが良かった。
グレーテルのマニュキアシーン好き。彼の独占欲とロマンチックな部分が出てるし、別のゲームで発売前に兄弟だと思ってたキャラ同士の本編マニュキアシーンを思いだして…。いや、それ抜きにしても好きなシーン!

 

「猟師編」

エンド2ラスト

百合花
「私、お兄ちゃんとずっと離れて暮らしてきたから、距離感が分からないんだ」
「だから、これからもベタベタさせてもらいます!」

最高。

「兄妹設定的にloveルートは無いだろ」と、本編で予想できたけどこの兄妹、特殊な環境とか色々で距離感が「妹」というより「恋人」っぽいから(ネックレス…)ハラハラしてたけどちゃんと家族愛に収まった。近親的なアレはメチャクチャ好きだけど、仮にやるとしてもFDの規模で終わらなそう。

「本編の裏側」のシリアスなルート、そのあたりは他の方が語ってそうだし私はオオカミ編でズガーンとショックを受けたので、諒士については「エンド2ラストの文章サイコーだったな」で〆ます。

「オオカミ編」

この話キツすぎないか?「最初からハッピーエンドが存在しない」のは本編やった身からするとわかっていたけれど、こうしてオオカミ視点で追うと残酷すぎる。百合花~オメ~……と何回か思ったけど、そんな百合花だからオオカミは好きになり、そんなオオカミだから百合花が近づいてくれたのかと思うと…。妄想(幻想)のなかでしかハッピーエンド(ウェイデング)が無いオオカミ……。でも「幻想の中でしか幸せになれない」というシチュエーションは、私の好み。

 

諒士「違うんだ。あいつは……なんというか正気で狂っているんだ。」

オオカミ「…というと?」

諒士「あいつは全部自覚してやってるんだよ。自分が他人からどう思われるのかとか、承知の上で全てを行っている」

 

アリステア
「普通って何だろう」
「人の形をしていて、考える頭があって、感じる心を持ってることが普通なのかな?」
「だったら、ありすも普通だよ」

「少し見た目が変わっていて、考え方も変わっているかもしれないけど、他の人達と同じように、喜んだり悲しんだりする普通の心を持ってる」「だから、本当は傷ついているんじゃないかな」
「笑っていても、気にしない素振りを見せてても、本当は悲しんでるのかもしれない」

中略

正直、敵わないと思った。
この二人はお互いにお互いのことを心配している。
そして、誰よりもお互いを理解しているんだから。

 

上の引用が、オオカミとアリステアと百合花の関係そのものだと思ってる。常人には「狂っている(=普通じゃない)」と表現される百合花の一途さ、それを「普通」と表現し、百合花の裏側まで気づいたアリステア。その時点でオオカミは「ハッピーエンドを掴めない」ことが確定してたんじゃないかな。

 

ただ、「あまたの人格を含めてそれぞれを個別に愛する」という思考も、本編の描写で言うなら個性か。
事実、自身の容姿を異常と嘆いていた幼い百合花は、アリステアという「王子」の出会いで一変。
お姫様になった少女は、自分の風変わりな愛すら肯定して「王子」を救う、それはアリスのヒロインの「百合花」も例外ではない。

 自分の過去記事でもこう書いたけど、百合花を『「異常(=普通ではない)」ではなく、「普通」の延長』として受け取ったアリステアとの出会いで対アリは開幕したワケで、そう考えるとオオカミにハッピーエンドが無いのも当然か。 

オオカミ
「でも、俺には本当のありすちゃんが分からない」
「ずっと、何でありすちゃんはあっちゃんのことが好きなんだろうって思ってたけど」
「それがあっちゃんがいい奴だってことだけじゃなくて、多分あっちゃんだけがありすちゃんの裏側に気付いたからなんだろうな」


中略

 

オオカミ「なんか……こうして考えて見ると、案外、俺も多重人格なのかもな。」
赤ずきん「え?」
オオカミ「今もこうして、頭の中であっちゃんと会話してるし」
赤ずきん「……皆、多かれ少なかれそういう一面は持ってるんじゃないか?」
オオカミ「自分のキャラを作ったり、こうやって都合の良い妄想したり?」

赤ずきん「ああ」

だけど、オオカミは「自分には百合花の裏側まで見抜けない。」・「でもアリステアだけが裏側に気づいた」・「アリステアの”普通ではない”部分は、案外だれしもが持っているのかも」と考えた。つまり、百合花という少女の、芯(しん)の部分にかなり迫っていた。「分からない」ことを認識するのは、とてもスゴいと思う。ただし、とても近いところで来たが、オオカミは行けるのはそこまで。彼は百合花とハッピーエンドを迎えられない。そういう男だからこそ、百合花が選び、そういう女だからこそオオカミが選んだと思うと、やりきれないわ。

 

「嘘を吐き続ける」とエンド1。百合花に思いを告げない。友人のまま。エンド1はどこかで破綻を迎えそうでコワい。
「嘘を吐かない」とエンド2。百合花に思いを告げる。
エンド3は嘘を吐いたり吐かなかったり?かな。「百合花が好き」な者同士、アリステアとの勝負はこれから!的なエンド。

エンド2が残酷だけどいちばん好きだな……。思いを告げて、こんなにやりきれないエンディングを迎える乙女ゲームもなかなか無さそ。このあとのオオカミにとって、ふたりのアリスは苦くて甘い思い出になるのかなあ。でもオオカミぐらいの良い男なら、百合花じゃないけどステキな女の子に出会いそう。そう、オオカミは”絶対”に百合花じゃなきゃいけない理由が無い。
アリステアは違う、百合花はアリステアじゃなきゃいけなかった。。そしてアリステアにとって、自分のすべてを救えるのは百合花だけだった。互いが互いじゃなきゃ成り立たなかった。グレーテルが誕生したのは、そのバランスが狂ったから。
そう考えると、百合花とアリステアの関係がうまくいったのは、オオカミの存在が大きい。