闇鍋

恋愛ADV(エロゲ・ボブゲ・乙女ゲ)の長文感想置き場

『沙耶の唄』の感想・レビュー

 

「それは、世界を犯す恋。」
まさにキャッチコピー通りの恋だった。

 

自分がこの作品を購入した理由はふたつ。
ひとつめ、虚淵さん執筆で名の知れた作品だから前からやりたかった。
ふたつめ、このブログをしばらく放置する理由になったダンガンロンパV3もとい天海の声優さん…によく似た人が主人公だから。
そんなこんなで購入から半年以上たってる気もするけれど、やっとプレイ。

 

つづきはネタバレ。

 

グロテスク・沙耶の正体がアレ、という部分は既知でプレイした本作だったが、夢中になって読み進められた。 
長い作品ではないし1日もかからずに読むことができたけれど、ギュっと濃縮されていて、だからこそ飽きずに進められたのかも。

 

沙耶は人外だけれど、人間の持つ良識や常識を知っている。
だからこそ郁紀の好む味付けを探して調理したり、人間の肉を口にした郁紀へ「ねぇ大丈夫?それって—―」と声をかけた。
なによりも、逸脱したおぞましい容姿をしている沙耶が郁紀のために人参を切っていたという事実が、なんともけなげでいじらしい。
いっしょにご飯を食べたり、抱きしめたり、抱きしめられたり、自分を必要としてくれる。そういう関係が孤独なふたりにとっては何よりの幸せ。
人外と人間のコミュニケーションが好きなわたしにとって郁紀と沙耶の関係はとても好み。

 

いちばん好きなのは、刑務所?精神病棟?エンド。
沙耶は郁紀の前に姿をあらわさない。彼女はまぎれもない人外だけれど、いじらしい少女のような感性を持っている。
このエンディングだと、自分といっしょにいることで郁紀の感性が『自分と近づく=異常』になっていくことを恐れている。けれども自分に近づいていくことを喜んでもいる。その葛藤が好き。
沙耶は「人間」とはほど遠い存在なんだけれど、感性や知識はわたしたちと似ていて、郁紀の「人間らしさ」も意識している。だけれど人を食うことには躊躇わない。
その倫理のギャップがわたしの好きなところだったし、とにかくツボだった。

 

ヴェドゴニアでも思ったけれど、虚淵さんは人外の異能のちからを描写するのがうまい。センシティヴで、うつくしい。
物語が進むにつれて(瑶へ)嫉妬をして「人間」へと近づく「怪物」の沙耶、ひとを食べたり殺すことに躊躇わなくなり「怪物」へと近づく「人間」の郁紀。
その対比のすえが、「人間」が「怪物」になる開花エンドってのは何かいろいろと感じさせられる。そもそも人間と怪物の違いなんて認識次第でコロッと変わるのかもしれないね、郁紀みたいに。
沙耶と郁紀の倫理観はガバガバで罪のない友人たちからしたら大迷惑ってレベルじゃないけれど、プレイヤーは沙耶たちのひとりよがりでパワーのある恋に感情移入しちゃうから、そのへん構成がうまいよね。

 

で、この作品は「純愛」として有名みたいだけれど、自分はそうとは思わなかった。
「恋」ならしっくり来るんだけれど、「愛」だとウ~~~ン。

なんでかと言うと、郁紀は視覚等感覚が異常になるという特例があったから沙耶に愛情が芽生えたわけで、途中で逆の現象が起きたら沙耶への愛は薄れちゃうんじゃないかな?と。それこそ冒頭の友人たちへの嫌悪みたいに。精神病院エンドではそうでもないような気もするけど。

『「愛」とはなにか?』という問いに「これだ!」と答えは突きつけられないけど、沙耶郁紀の関係は極限(=特例)状態で生まれた愛というよりは依存とかそっちのほうが近いんじゃないかな…。そういうことを言うのも野暮か。