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「俺たちに翼はない」の感想・レビュー

 俺たちに翼はない 公式サイト

これは"たとえば"の話だけど。
僕らが君に語るのは、たとえばそんなメルヘン。

 

この作品、テンションの高いコメディや軽快な会話劇でコーティングされているけど、中身はなかなか残酷なものがつまっているんですよね。
鷹志やカケルくんの過去を筆頭に、ヒロインたちも程度は違うものの現実に対してほろ苦いものを持っている。それ以外の人々も同様。自分はここにいるべきではないのでは?と感じていても、翼がないからどこにもいけない。そういうキャラクターが多い。

 

「知ってるかい。世界なんて、おまえらみんなたちの心の中にあるチャンネルをひねれば、いくらでも変わってしまうものなんだぜ」

 

でも世界を変えれないなら、自分を変えればいい。辛辣な現実も、認識を変えれば今までとは違う鮮やかな世界が見える。そうすれば「翼がない」ってこともないんじゃないかな?そういう話ですね。

あと、人とのつながりが傷を抱える原因になっているけど、同時に人とのつながりで救われることがある。
核の部分や群像劇というスタイル、上記の点で非情に多角的な作品だと思った。


なんかフワッとした書き方になってるけど、この作品のいちばんおもしろいところっていうか核の部分にふれるとネタバレになるので、こういう書き方になってしまう。

 

西又葵さんのグラフィックは華やかでカワイイけど、ぶっちゃけ女性キャラの顔だけ見せられたら見分けつかないですね。でも、やってるうちにキャラを覚えるので気にならなくなる。
エロシーンは『しっとり』じゃなくてギャグ調、笑える。でもスゴいニヤニヤする、カップリング的に。こんな色んな意味で笑顔になる濡れ場は初めて見たよ。好き。
あとスキップが便利だった。まとまりで飛ばせて、あらすじまで説明してくれるから周回が楽。

 

ウィットの効いた文章は笑えるけど下ネタ・スラングが非常に多く(エロゲですら伏字の入る言葉が連発される)、美しい日本語を求めているかたにはまったく薦められません。
それらに耐性がある、むしろ「好き!」というプレイヤーはメチャクチャ楽しめると思います。1章が電波とイジメのダブルパンチだからリタイアしかけるかもしれないけど、2章からは明るいので、どうかそこまでやってから判断してほしい。まあ、4章はカオスでバイオレンスでくりゅってるノリになるんだけど、そこまで来たらもう最後まで走り抜けられるがんばって。1週したら登場人物の思わせぶりな行動や言動の理由もわかる。

 

あと、女性プレイヤーに非常にオススメしたい作品。
今はエロゲには出てくれなさそうな有名声優が多く、女性キャラだけではなく男性キャラも魅力的で濃い方々がたくさん。
ヒロインと主人公のカップリングはニヤニヤ!マスターとLRさんすき!歩く放送禁止用語兼ヒロインのカケルくんサイコー!

思えば下ネタ2大キャラが好きで、手淫のくだりもテンポ良すぎてメチャ笑ったから私はこのゲームに非常に向いているプレイヤーだった。ちなみに隼人編がツボだったひとは、ドラマ板IWGPや「TOKYO TRIBE」が向いていると思うんですがどうでしょうか。私は全部好きです。前者のノリは隼人編とかなり似てて面白いよ、後者は映画としてはウ~ンだけど2時間あるPVとしてはとっても大好き。両方に出演している窪塚氏のキチっぷりがサイコー。

まとめ

そんな感じでテーマうんぬんむずかしいこと抜きにしても、コメディが自分に合ってたしキャラクターに愛着わきまくったし、とても楽しい作品だった。

 

今作は根強いファンが多いようだけど、フルコンした今だととても理由がわかる。すごい前向きで優しい作品。
作中で自分の想像の世界にこもるキャラが何人かいるんですけれど、そのことを否として書いてないんですね。いや大人になれよって言う人もいるかもしれないけど、その性質のおかげで明日香やカケルは救われた。あともう一例として山科ルート。彼女の性質を第三者から見て”正しい”方向に持ってくるシナリオではなくて、そのまま幸せになろうとする。ここでも否定はしないんですよね。だれかの幸せはだれかの不幸で逆もしかりで、わざわざ世間から見て”正しい”ほうに修正しなくても、ちょっと見方を変えれば世界は前より輝くんだよ!ってことを説教臭さなく教えてくれる、とても良い作品でした。世界が平和でありますように!

あとはキャラネタバレ。

 

 

渡来 明日香(わたらい あすか)

初見で1章が「?????????」でつらかったけど、明日香がいたから最後まで走り抜けられた。この記事では明日香って呼び捨てにしてるけど、明日香さんとか敬称をつけたくなるキャラだったよ。で、明日香ルートは、鷹志の6つの残務処理に追加された「卒業文集の完成」までの話。蔵人との友情もちょっとある。


明日香は甘々な容姿と『学園のプリンセス』な評判とは裏腹に、さっぱりというかそっけないタイプ。彼女は自分と周囲に違和感を感じた結果、「明日夢(あすむ)」というイマジナリーフレンドの弟をつくった。そして、マイナスの感情がつもると『ウイングクエスト(RPGゲーム)』をモデルにした「グレダガルド」という想像の世界に行ってしまう鷹志。明日香と鷹志、ふたりは似ている。

  • 「もし悲しいことを悲しいと認識しないで生きていけるとしたら、それは幸福なことなのかな。」
  • 「羽田君の想像力はすごいなあ。物事の良し悪しなんて、結局は考え方次第なのかもしれないね」
  • 「どうなんだろう…うん、おれは寂しいのかもしれない。だけど、寂しさを寂しさと認識しなければ、それは寂しいうちに入らないんだよ」

想像の世界に閉じこもっても『なにか』を持って帰られるなら、それは逃避じゃなくて探索。だから、世界は金色だしグレダガルドとはさよならなんだな。
明日香ルートはおれつばの核に一番触れたものだと思った。イジメをイジメだと認識してない鷹志にとって学園生活は優しい。

明日香とくっつくまではイチャイチャは少ないけど、くっついたらデレに。「だいちゅき」は効きました。

山科京(やましな みやこ)

おとなしい少女。アッパーとダウナーの差が激しくネトゲ好き。
『一生』ってワードがやたら出て、こわい(こわい)って感じだった。でも依存もちゃんと向き合えば恋愛なんだよなあ(いいセリフ)……不幸を不幸だと思わない鷹志だから恋愛になる。それ以外だとメンヘラちゃんで終わりそう。
ラストを見るとぽっぽや叔母さんも協力的っぽいし、多少嫉妬深いけどいい奥さんにはなるんじゃないですかね。バッドで刺されたことは置いておこう。

 

玉泉 日和子(たまいずみ ひよこ)

いちばんのダークホース。
たまひよルートはアレキサンダーメンバーのかけあいや千歳とのラブコメなど、一番楽しかったルート。全ルートおもしろかったけど「楽しい」という意味では今ルートが一番好みだった。
千歳がたまひよの三作目を出版できるように奮闘する話なんですけれど、その合間にたまひよがホソリュー好きなギャップやわざわざ制服見せてくれるところとか、たまひよ可愛いが加速するエピソードが挟まれるので、ヒロインは可愛いわ千歳もツボだわと良いことづくめ。

 

千歳編の序盤の「いえ、一面的には感謝しています。些細な偶然の積み重ねがどこまでひとを不快たらしめうるか、教えてくれたのは貴方でした」と、たまひよルート終盤の「いえ、感謝しています。些細な言葉の積み重ねがどれだけひとを恋に陥らせるか、教えてくれたのは鷲介さんでした」の違いはバク萌え案件。
事後の手紙の件がメチャクチャかわいくないですかたまひよ、お小言かな?と思ったら追伸でしおらしいデレマックス。さらに相合傘のラクガキという畳みかけでフー――――――――――――――ッと深呼吸してしまった。エンディングの微笑みジェノサイド入りも爽快で、人生ってホントにいいものですね。


で、ここで終わりにしようと思ったけど人気投票のSSにふれずには終われない。
「やった!イチャイチャだ!!違う!」というSSで、選ばれなかったヒロインはこういうことになるんだよってビンタされるものです。コレはフルコンしたひと全てに読んでほしい短編なので読んでね。


鳳 鳴(おおとり なる)

公式サイトとかの初印象は「小動物系ずうずうしいタイプだ!好き!」。
と思っていたら、結構まわりに気を使っているタイプだった。例として『犬の散歩の件がドタキャンされたとき、ウキウキワクワクで来た自分がもしかして英語の単語の件と同じく”やっちゃってるかも”と思っている時』や、『「今日だけは夜遊びしたい」と言ってプレゼント交換を持ちだした理由は自分の誕生日だから(それを言わない)』のいじらしさ。かわいいね。でも基本的に天然だからそういう面が出ることは少ないんだけどね。

 

隼人とのカップリングがなにげに不良×お嬢様で少女漫画みたい、まあストリートギャングの抗争が入るから上品とは言えないルートだけどね。それにしてもデコチュー最高。
鳴ルートでは、プラチナは俳優としての道を歩んでいき、アリスはもう夜の街に来られないし、マルチネスはロスに帰るし、メンマは店を持つし、それぞれの道を歩むんだよね。そして隼人は鳴と一緒に朝を迎える……しびれる。仲間とか友達とかそういう関係を認めたあとの隼人はかっこいい。

あと鳳兄妹の関係が他ルートだと緊張感あるように書かれていたので身構えてたら、すごいフランクな仲だった(あだ名)。ポケベルのメッセージとかジーンときた。

羽田 小鳩

かるら編のヒロイン。
ぽっぽに関しては過去で鷹志との関係がつみあがっているから、最終ルートで変わったのはちゃんとくっついたことぐらい。なあなあでックスするから妹なのに大丈夫?!!ってハラハラしたものの、いとこだったからセーフ。
統合ルートはパシリのアイテムだったブルガリが、森里のお見舞いのためのブルガリになるのがグッときた。あとフリーラップ対決がアツい。

 

鳳 翔

かるら編の裏ヒロインってことで彼のこともここに書きます。
彼の過去は断片的に語られて全容がつかみづらく、本人もかる~~~く話しているけど、凄惨で重い。鷹志と同じように性的虐待を受けていて、成長して大人になった今でもフラッシュバックで夜も眠れない日があり、重度のトラウマになっている。

少年時代は誰にでもあるものだけど、体はともかくとして精神を子供として過ごせていない人間が存在している。そしてカケルくんはそれに当てはまる。だから大人から見たら「イタい」と評してしまうかるらの壮大な空想に夢中になる。
そして幼少時のカケルくんを救ったのはかるらで、いまでもそれは変わらない。ずっと憧れて思い慕ってきた。
そして、どのルートでもどの人格でもなんだかんだで羽田からは離れない(明日香ルートではどうなったかわからないけど)。

どうみてもヒロイン。

 

鳴ルートで、母親が外国人で子供を置いて逃げたっぽいことを示唆しているけど、なんで翔が男娼めいたことをされたのかは描写されていない。
「鳴は昔から父親似だと言われていた。どちらも皿から零れた苺をベッドに潜るまで惜しんでいるようなやつらだった。俺はガキのころ、しばしば母親似だと言われた。俺は別れた女の名を三歩で忘れるタチだ。」
深読みマンだから母親に似てて、うらみの代償行為でそういうことをされたのかなあと思ってしまう。今まで鳴が数年外国にいたこととか意味深じゃないですか。そんな妄想は置いといて、この文章は美しい、とても好き。カケルくん詩人?イラストレーター。
あとアニメ1巻のコメンタリーが鳳兄妹好きにはたまらないものになってるからオススメ。バニイDも良い味だしてます。

 

羽田鷹志(はねだ ようじ)について

今まで見た『「解離性同一性障害」を扱っているアニメ・ゲームのフィクション作品』でいちばん症例に沿っているキャラだった。と言っても、私は専門の人じゃないし本やテレビの知識で判断しているから基準も正確なものじゃないと思う。だから間違っていることを言ってるかもしれないから鵜呑みにはしないほうがいいよ。


ひとつめに、幼児の人格があること。これは「解離性同一性障害」だったら確実に存在している人格だと思うんだけど、ことフィクションでは省略されることが多い気がする。
ふたつめに、人格交代による声の変化にふれられること。「解離性同一性障害」を扱った某番組で俳優のかたが「演技だとしたらここまで声の質を変えることはできない」と言っていて、おれつばでも人格の数だけ別の声優さんが担当している。
みっつめに、今までの人生でいくつもの人格が生まれて消えていったと描写されていること。「解離性同一性障害」では異性の人格があるケースが多いけど、おれつばには無かったのはその『以前はいたけど消えた人格』のひとつだったんじゃないかな。
あと、千歳や隼人の話で『自分が副人格のひとつだとはじめて認識したときにアイデンティティーがゆるがされて”奈落”に堕ちた時期があった(要約)』がさらりと書かれているけど、ビリーミリガンのケースと似たものを感じた。

 

もちろん羽田はある程度デフォルメされているし、現実ではこんなにスムーズで安定した「解離性同一性障害」はいないと思う。それと最後にプレイヤー(=今まで見聞していた人物)がISHだったと判明するけど、実際のISHは他人格にかなり干渉するタイプのようなのでおれつばには当てはまらない。
でも、こうしてまとめてみると「解離性同一性障害」をわりかしちゃんと書かれた作品だったんだなあ。